轟音事変

轟音は"ごうおん"と発音してください。

陰謀論にはまりかけた人を救出した話

友人のAさんから「ワクチンについて聞きたいことがある」と連絡があった。私はワクチンの専門家でも何でもないのだが、Aさんの性格から察するに陰謀論絡みであろうと推測し、ただちに救助へ向かった。

Aさんの話を要約すると以下の通り。

"知り合いにワクチン反対派がおり、その人から紹介された動画やテキストを見ているうちに「なくはない」という感覚になった。内容はよくわからないが説得力があるように感じた。否定する記事も探せないため、否定することもできない。ワクチンは危ないのかもしれないという不安を背後霊のように背負うようになった。自分ではどうすることもできないため連絡した。"

という。それで、まずはその動画を拝見することにした。
アクセス数に貢献する気もないので、リンクは貼らないがいわゆる「赤文字系」である。典型的な類のものだったが、Aさんが「これが特に気になる」と伝えてきた動画はさらに格が違い、どこの国かもわからない謎のおっさんと謎のじいさん(ワクチンの専門家風の説明はされる)がニュース風に話している動画に翻訳がついた内容であった。

やれやれと思いながら数分だけ見て、やれやれと思いながら、そっ閉じ。

「どう思う?」と聞かれたので、『どうもこうも、なぜこの動画を信じることができるのか?』と質問で返す。曰く、よくわからないけど本当かどうかわからないから判断ができない。そして、どの内容も嘘だとすればなぜこんなに手間をかけるのか?という疑問もあるとのこと。

というわけで質疑応答タイム(当日話していない捕捉も含む)。

まず前提
ワクチンに対して不安を感じることは自然な感情だとは思うので、それ自体は否定しない。そもそも強制ではない。発熱などの副作用があることも事実。その点は周知されている通り。

動画などの情報は本当なのか?
デマだろう。

なぜわかるのか?
典型的なデマ情報の形式だから。

デマ情報の形式とは?
(1)発信者の信頼性が無い
(2)発信媒体に信頼性が無い
(3)構造に矛盾がある(本物の専門家なら然るべき組織に提言するはずとか)
(4)逆張り一辺倒(不安を煽りリスクばかりを強調する)
(5)基本的に断定、強い言葉、赤字・太字を多用。

情報が正しいかどうか、どうすればチェックができるのか?
「キーワード デマ」などで検索すれば影響力が強いデマ情報はファクトチェック記事が出ている可能性は高い。
※今回の事例もすぐに該当する記事が出てきた。この検索方法がすごく喜ばれた。

なぜデマが生まれるのか?
理由は3つ。1つはデマはニーズがある。こうしてあなたのように「関心がある人」は大勢いる。ニーズがあればニーズを埋めるものが現れる。ニーズがあれば商売になる。つまり利潤目的のデマ。もう1つは噂話。伝言ゲームをすると最初と最後で異なる結果が生まれる場合がある。例えば「〇〇かも」と1人目が発言、2人目は「〇〇らしいよ」となり、3人目は「〇〇だってよ」となる。3つ目は統合失調症を含む妄想癖から発生する可能性。さらに愉快犯とかも含めれば他にもいくらでもありそうだが、いずれにしろデマが発生する可能性はあり、広まる要素も十分にある。なぜならば「なくはない」と捉えるニーズが沢山あるから。

デマは捕まらないのか?
基本的に捕まらない。

kusatsu.vbest.jp

※ただしデマが他人の信用をおとしめる結果を招いた場合は捕まる可能性はある。

デマ発信者は適当に発言すればよいが、それをデマだと断定する側は非常にコストがかかる。例えば「地球が丸いは嘘」というデマを発信したとする。映像も写真も全部CG、すべてNASAの陰謀だと主張。どうすればこのデマを根本的に潰せるだろうか?少なくとも簡単ではない。そして、反証したところでその内容を更にデマで被せることも容易にできる。

さらに完全に証明できたとして発信者側が「私も騙されていただけだ!」と言われれば終わる。そのような話に本気で向かうコストを誰も払いたがらないのが自然。つまり、デマは発信者側が最初から強い構造になっている。
 

------ ここまで ------

とまあ、こんなことをなるべく優しい内容で説明し、Aさんの洗脳を解くことには成功した(よかった)。
Aさんの話を聞いて感じたことは、フォーカスされているのは内容ではなく「権威」だという点。内容に関しては素直にいえばそもそも理解をしていない。重要なのは「専門家(風)がそれらしく真剣に意見をいう姿」にある。

心理学およびマーケティングの専門家である、ロバート・B.チャルディーニは「影響力の武器」にて権威について以下のように記述している。

"権威と認められた人からの情報は、ある状況でどのように行動すべきかを決定するための思考の近道を提供してくれる"
"理屈に合いすぎているせいで、私たちはしばしば、まったく理屈に合わないような場合であっても、思わず権威者に従ってしまうのです。"

この指摘はすごく重要で、相手に権威者であると認知させた段階でその先の展開は権威者側に都合よく進めることができる。デマ情報の特徴でもある過度の権威付けはこの点を意識しているのではないかと考えられる。

ちなみに日本の医師や弁護士は資格検索できるので、こういうものを活用して偽物を見破ることも可能ではある。

医師検索

https://licenseif.mhlw.go.jp/search_isei/jsp/top.jsp

弁護士検索

https://www.bengoshikai.jp/

今回Aさんと対峙したことでさまざまなことがわかった点は収穫だった。「それらしいスタジオ」などは特に有効であり、おそらく中高年などにはさらに効果があるのではないかと推測された。陰謀論にはまるような方はこの記事を読む可能性は低いとは思うが、もしも身近で危うい人がいれば参考にしていただければ幸い。

最後に非常に参考になる俳優・高知東生さんの陰謀論脱却記事をオマケで貼っておきます。

参考リンク

www.buzzfeed.com