轟音事変

轟音は"ごうおん"と発音してください。

復興は進みましたか?

東日本大震災から間もなく10年が経過する。

そもそもの前提なのだが復興は対象により、見方が異なる。「復興は進みましたか?」と問われた場合、それが道路や建物など自治体に関連づいたものを指すのか、商店街などの地域を指すのか、地場産業などの企業を指すのか、個人を指すのか、で大きく異なる。言われてみれば当たり前なのだが、問いを発した方も受けた方も認識があいまいなため回答もあいまいになる。だから、復興の話をする際は主語が何に当たるのかを確認することがまずは重要だ。

特に個人単位の復興に関しては千差万別であり、思想も含めれば究極的にはそこに終わりという概念はないため、区切りというものも実質的に存在しない。一方、個人ではなく、自治体や地域、企業に関しての復興に関しては別であり、それぞれの目標設定を考慮しロードマップを作成すれば10年はやはり一つの区切りになるといえるだろう。

その上で、ここから書く内容は個人ではなく「組織視点」である、ということを先に書いておく。

復興においてもっとも重要な点は何か、という問いに関してはシンプルに答えることができる。目的と目標を突き詰めて考えることだ。例えば企業は顧客を獲得することが最大の目的であり、企業の複合体ともいえる商店街は顧客を獲得する集積装置にならなければならない。そのためには顧客のニーズを満たす必要があり、自分たちの資源を組み合わせて提案する必要がある。その上で目標は何か、選択するものは何か、削減しなければならないものは何か、ボトルネックは何か考えていく必要がある。まず先に来るのは何をするのかではなく、何のためにするのかを改めて考えることである。

それに対し、2012年に石巻市中心市街地活性化検討委員会で議論された事例を紹介する。私はこの委員会に街の重鎮の中に混じって一般市民枠として参加した。その際に立町商店街が10個ほどのブロックに分けて復興計画が作成されていることを知った。街の人は、こっちはどうだ、あっちはどうだと議論をしている。私は疑問に思い「商店街は一つだから、全体を一つで考えることはできないのか?」と聞いた。するとその場にいたみなさんが振り返り「それはできないんですよ」と返された。後から聞いたが街中の商店街は、地権者組合ごとにわけられて計画を立てられていた。商店街に新しい建物と古い建物が混在しているのはそういう背景がある。

合理的に考えれば、商店街は顧客の集積装置なのだから顧客視点で考える必要がある。顧客は商店街は10個に分けられているとは思わないはずで、目的を考慮すれば可能な限り1つで考える方が筋は通っていたはずだ。

ということをいまさら批判したいわけではなく、この事例で最も重要な事実は「大災害が発生しても既存の風習・枠組みはそう簡単に崩れない」という点である。

更にもう1つ重要な点はこうした「まちをどうするか」といった議論、主語を企業に変えてもいいが、どうしたいのか?を問われて回答できる時間は非常に短い。10年のうち最初の1~2年で大きな予算編成が行われるため、その間に結論を出し計画を策定する必要がある。建設業のスローガンに「段取り七分に仕事三分」があるが、7分を10年の最初のうちにやらなければならない。

つまり、災害が発生してから考えるでは遅いのだ。女川のように最初にグランドデザインを重要視し、そこに時間を割いた例はあるものの、比較的レアケースといえる。さらに自治体規模も考慮すれば他の地域に再現性がない場合もある。むしろ、平時から「何のためにやるのか?理想は何か?こだわる点は何か?」をそれぞれの組織で議論し続けることが現実的であり、もっとも重要なのである。さらに本質的には防災、つまり、自分たちの地域にどのような災害の可能性があるのかを予見した上で、「どうしたいのか?」を考慮することが復興の近道になるといえる。防災が復興につながるのだ。いずれにしろ、普段からそうしたことを話し合える環境、目的を持ち、目標に向かう姿勢が重要なのである。