轟音事変

轟音は"ごうおん"と発音してください。

綾瀬はるか氏との邂逅

石巻をよくしたいから来たってことですか?』

昨年の10月あたりだっただろうか。事務所として活用しているコワーキングスペースにドラマの撮影が入ると聞いた。完全貸切になるとのことで最初は了承していたが、日程が二転三転。結果的にこちらも事務所で作業が必要な日に重なったため、撮影現場を横目にこちらは邪魔にならないように作業をすることになった。

当日はすでに大がかりな準備が進められており、わたわたする中を通りながらデスクに座った。機材や設備にスタッフもたくさんいる。へーすごいなあなどと見ていると、ドラマの主役が現場入りしてきた。その日までどのようなドラマかよく知らなかったのだが、NHKの311に合わせた内容のもので主演は綾瀬はるかさんと池松壮亮さんだった。つまり、綾瀬はるかさんが事務所に現れたのである。

あまり詳しくない私でも綾瀬はるかさんの存在は当然知っており、どういう人なのかもイメージはできる。そのイメージ通り、いやイメージよりももっと透明感があるような感じがした。見えないオーラが発生しており、容易に近づくことができないものがある。池松さんは見た感じちょっととっつきにくそうな雰囲気があり(交流した人曰くとても親しみがあったらしいが)、こちらも近づくことは難しそうだなあと遠くからぼんやりと思う。

そうこうしている間に撮影がはじまり、せっかくなので自分もちょい役ながら出演をさせてもらった。演技の事はよくわからないが、言われるがままに応えた。が、とても難しい…。

出番が終わり、また自分のデスクに戻った。デスクは撮影現場の奥の方にあり、さまざまな機材や設備が置かれて雑多になっている。撮影現場となっている場所に普段置かれているソファなども運び込まれ、窮屈だ。そしてその場になぜか出番待ちの綾瀬さんがふらっとやってきた。そしていきなりソファに座りだし、いきなりくつろぎ始めた。おおよそ2メートル程の距離の出来事である。

大胆不敵な行動に驚きながらも、ここは一つ冷静に…と。「エアコンの風は大丈夫ですか」と聞いた。位置的にエアコンの風があたる場所にいたため、乾燥が気になったのだ。『大丈夫です』と笑顔で答えてくれたが、やはり気になったようで位置を変えた。窮屈な状況なのでそもそも場所もなく、必然的に自分の隣に来ることになった。場所を整えるためにこちらが椅子を整理していたところ、私のカバンが落ちて、『ごめんなさーい』と言ってる顔がまんま綾瀬はるかじゃねーか…いや本人か…みたいな状況になった。

自分の隣に綾瀬さんが台本を読んでいるという、想定を越えた自体が発生したのだが、それでまあ世間話もするよねってことで、『この辺でどこか美味しいところとかありますか?』と聞かれた。まきいしのハンバーグが面白いよって答えた。だいたい美味しいところは行くだろうからエンタメ目線で答えたのだが、再度『美味しいんですか?』と聞かれた。食べるの好きなんだなってことはすごく伝わった。

そして『地元の方なんですか?』と聞かれたので、「震災後に来た移住者です」と答えたところ、『それって石巻をよくしたいから来たってことですか?』とあのくわっと目を見開いた顔で聞かれた。意表をつかれた質問で驚いた。面喰って「まーそうですね…」などとお澄まし顔で答えてしまったが、もう少し考えてきちんと回答すればよかったなあと今になって思う。今も頭の中でリピートされる。

綾瀬さんの役どころは地元役で、池松さんは移住者という立ち位置。撮影でのやり取りはまるで自分(移住者)が言われているようだなあと臨場感がある演技だった。本編が楽しみだ。

東日本大震災10年 特集ドラマ「あなたのそばで明日が笑う」
2021年3月6日(土) 総合・BS4K 夜7時30分放送

www.nhk.or.jp