轟音事変

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仙台・宮城観光PR動画について考える

宮城観光PR動画が物議を醸している。
問題になっている動画はこちらだ。

ぱっと見ただけでも「やっちまったな…」と感じるが、一体何をどうやっちまったのか、考えてみたい。

== 確認作業 ===============

◆基本的なコンセプトを推測
宮城の夏は東京に比較すれば涼しい。にも関わらずこれまで避暑地としてアピールした事も少なく認知度も低い。そこで需要の掘り起こしとして、涼しい宮城をアピールし夏の観光客を増やしたい。涼しい宮城…涼しい宮城…そうだ「涼宮城」と書いて竜宮城をもじったアピールで展開しよう。といったところだろうか。動画に関してはこのコンセプトに宮城の観光資源を乗せて、インパクトのあるものを作りたいとでも考えたのだろうか。

壇蜜の起用に関して
記事によれば"イメージキャラクターとしたのは「伊達家に由縁があり、クールで妖艶」だから"とのこと。壇蜜さんは秋田県出身であり、祖父が伊達藩士だったという縁があるとはいえ背景はやや無理をしている印象がある。つまり「クールで妖艶」が先行しており、そのイメージで壇蜜さんが選ばれたと考える方が自然だ。

◆クールで妖艶とは
クールとは「涼しくてさわやかなさまを」を表し、妖艶とは三省堂大辞林によると"あでやかで美しいこと。男性を惑わすようなあやしい美しさをいう。"だそうだ。

◆ターゲットの推測
わざわざ書くまでもないが、「妖艶な竜宮城の乙姫様」を演出の要に据えているためこの時点でこのPRの狙いが「成人男性」を向いていることは間違いない。

◆動画に登場する内容の確認
(1)ずんだ餅
(2)牛タン
(3)伊達政宗公生誕450年
(4)松島上空(松島の説明なし)
(5)東京仙台間が最速90分

といった順番で登場し、仙台の定番を紹介?する内容となっている。

◆演出
(1)むすび丸鼻血
(2)扇情的な呼びかけ
(3)にんまりムネリン
(4)亀さん上のってもいいですか
(5)にんまりむっくり亀さん
(6)松島上空
(7)謎のむすび丸(かっこいいイメージ?)
(8)涼しげで素敵
(9)あっという間にイケちゃう

とてもわかりやすく「妖艶」をテーマにした演出だということがわかる。

== 問題点 ================

というわけでここまでは動画から読み取れる背景と内容の確認を行った。その上で問題点の考察に移りたい。

◆宮城は涼しいのか?
そこかよ!って気もするけど、宮城と東京両方に住んだ経験がある自分として宮城は「大して涼しくない」実感がある。実感で判断するのもあれなのでデータをみると、

https://weather.time-j.net/Climate/Chart/sendai?compare=tokyo&select=44

7月、8月で平均気温は2℃~3℃程度低いようだ。
涼しさでライバルとなりそうな札幌は仙台からさらに2℃程度低く、さらに首都圏の避暑地で有名な軽井沢は仙台より3℃程度低い。比較をすればやはり宮城はそこまで涼しくはない。当然宮城でも避暑地的な場所はあるが、今回の動画は「宮城が涼しい」と言っているため仙台も涼しい必要がある。そう考えた場合、実際に行ってみたら「思ったより暑い」との評価につながる可能性が高く、満足度を下げる結果となるのではないか。

◆ターゲットを成人男性に絞る事の是非
この記事を書くにあたり色々とSNSでの評判も見てみたが「旅行のメインターゲットである成人女性を敵にするってどういうこと?」というような言説を見かけた。果たして本当にそうだろうか?

https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2014/10/nenpo2014p12-31.pdf

↑この2013年のレポートには観光目的の宿泊男女比は"47:53"と書かれており、若干ではあるが女性の方が率が高い。

http://reposen.jp/3743/9/52.html

↑またこちらの資料には同伴についてまとめられており、女性の方が同伴者を伴う傾向が強い事が指摘されている。いずれにしろ、女性の方が旅行に関する意識は高いことがデータからは確かに読み取れる。

マーケティング的な定石としては女性をメインにした方が良さそうでは有るが、掘り下げるという意味合いで普段ターゲットにしていない男性をメインに据えるのは戦略としてありだとは思う。しかしながら、あくまでもメインターゲットは女性の旅行者なのだからそこに配慮をする必要性はあるだろう。

◆妖艶さは必要だったのか?
わかりやすく成人男性の目を引く手法として、妖艶=エロを用いる点は何とか理解ができる。目を引きつつ、宮城ってこんなところで良いところなんだよという事が広まればいいわけだ。ただし今回の動画でいえば2つ問題がある。1つは男性だけが見る動画ではない点、もう1つは宮城の良さが消えている点だ。
前者に関しては今回の動画は広くPRする必要があるため視聴者を選ぶことは難しく、女性も当然目に入る。例えば今回の動画の内容が青年男性誌に掲載されているのであればそこまで問題にならなかったと思うし、逆にいえば青年男性誌的内容物が何のゾーニングもされずに世の中に出されてしまった事が非常に問題だと思う。こうなってしまうと、炎上してPVが伸びても、成人男性へのアピールと共にメイン客である女性のマイナス点も増えてしまう。
後者に関しては前述した通り動画の内容はいわゆる仙台の定番のみで、特に涼しげポイントもなければ目を引くような点もない。例えば、涼ポイントで冷やし中華の元祖といわれる龍亭を取り上げたり(サイトには掲載されてるね)、場所も最近高速が開通していきやすくなった三滝堂あたりを取り上げていればまだ違った見方ができたかもしれない。結果的に妖艶さだけが独り歩きして、宮城の涼とは?宮城の観光とは?という主題が抜け落ちているように見える。

== まとめ ================

低予算で海外旅行も視野に入る時代になり、だからこそ国内の観光は戦略性をもって緻密に長期的な視点でブランディングをし続けていくことが求められる。果たして今回のキャンペーンはロードマップの上にきちんとのせて考えたものなのか。炎上狙いをする必要があったのか。何を得て何を失ったのか。正解がないのもわかるし、リスクを取ってチャレンジする事もわかる。かといって不要なリスクまで取る必要はないだろう。一企業ではなく、公が税金を投入して制作している点も意識はきちんと持って欲しい。何にしろ効果測定をしっかりやって、次回に活かして欲しいと思う。

最後にこんなのばっかりなのかと思われるのもあれなので、第6回観光映像大賞を受賞した宮城県登米市の観光動画も掲載しておきますね。

◆参考記事
http://www.huffingtonpost.jp/2017/07/10/sendai-danmitsu_n_17448514.html
http://xn--eckp1fo1cxj1722cpen.tokyo/?p=2538
http://www.weblio.jp/content/%E5%A6%96%E8%89%B6

◆ちなみに
制作はADKアーツですね。
中の人が丁寧に書いていました。